赤ちゃんを授かれば、喜びと不安が入り混じった思いを経験するものです。歯列矯正をしている方の場合、「矯正治療をしていても大丈夫なのか」「治療は中断しなければならない?」など、気がかりに感じることもあるでしょう。

当医院では、「治療中の妊娠・出産はとくに問題がない」と患者様にお伝えしています。

今回は、矯正治療中に妊娠がわかった患者様に向けて、治療を受けるうえで注意したいポイントや悪阻(つわり)になった場合はどうすればいいのかなどをまとめました。

歯列矯正中に妊娠発覚!治療は継続できる?

歯列矯正中に妊娠が分かっても治療は続けられます。もちろん、つわりが非常につらいようなケースでは、一時的に治療をおやすみすることもあるでしょう。しかし当医院の患者様はほとんどの方が治療を継続できています。

今回ご紹介するポイントに気をつけていれば、お腹の赤ちゃんへの影響を心配する必要もありませんし、分娩時にも装置はつけたままで大丈夫です。

レントゲン撮影や抜歯などは妊娠中にはNGです。ただ、これらを行う必要があるのは、矯正治療をスタートしたばかりの段階がほどんど。妊娠がわかった直後に歯列矯正を開始するケースは通常考えにくいと思うので、レントゲン撮影や抜歯をできないことはそれほど問題になりません。

歯列矯正の治療には一般的に2〜3年という時間がかかるため、治療中に妊娠がわかる方もある程度いらっしゃいます。お腹の赤ちゃんのためにも過度に心配せず、リラックスして過ごしていただければと思います。

妊娠中の歯列矯正・できない矯正治療は?

痛み止めの薬の画像

基本的に妊娠中でも矯正治療はできますが、なかにはおすすめできない治療もあります。詳しくみていきましょう。

妊娠中のレントゲン・X線(エックスせん)検査はNG

当医院では、妊娠中の患者様へのX線(エックスせん)撮影と検査は控えております。

X線撮影は本来、骨や歯の位置を確認して適切な治療を行う目的で「治療開始時」「進捗確認」「治療終了」のタイミングで行います。そのなかでも重要度がもっとも高い撮影は、治療開始時だけです。

母体と胎児への影響を考慮し、治療開始時以外のX線検査は、出産後しばらくたってから行うようにしています。

妊娠中に抗生物質が必要な「抜歯」はNG

当医院では、妊娠中の患者様の抜歯は原則として行っていません。

抜歯には、妊婦さんの使用を控えるべき抗生物質の服用が欠かせないからです。抜歯治療には麻酔と化膿止めのための抗生物質服用が必要になります。

条件が整えば妊娠安定期に抜歯を行うケースもありますが、通常、歯列矯正治療における抜歯は緊急性が高くないことが多いため、出産後に行う場合がほとんどです。

矯正治療中の投薬|痛み止めや抗生物質、胎児への影響は?

妊娠中における矯正治療中の投薬は、「必要であれば」いつでも行うべきだといわれています。妊娠を理由に必要な処置をしないでいると、症状が酷くなるかもしれないからです。

とはいえ妊娠のステージによってリスクの程度が異なります。投薬に慎重になるべき時期もあるため、歯科医とよく相談した上で適切な痛み止めや抗生物質を使用する必要があるでしょう。

種類にもよりますが、薬剤が胎児に及ぼす影響として可能性があるのは以下の通りです。

  • 催奇形性(奇形を生じる)は妊娠4~10週頃まで
  • 胎児毒性(胎児の発育や機能を損なう)は全ての妊娠期間~分娩まで

薬剤の種類によっては上記の有害性が報告されているものも多くあります。

また、多くの薬剤で投薬は妊娠5ヵ月目以降が望ましいとされています。その一方で妊娠8ヵ月目以降は早産の可能性も否定できません。そう考えると投薬可能な期間は非常に限られています。

どうしても「痛み止めが欲しい」など、投薬が必要な場合はご自身の判断で行わず、必ず1度歯科医に相談しましょう。

矯正器具で悪阻(つわり)が重くなることってある?

人によっては、矯正器具による刺激や不快感でつわりが重くなることもあります。つわりはただでさえ精神的な負担が大きいものです。無理をして矯正を続けるとさらなる精神的な負担を感じてしまう可能性もあります。

そのような場合は無理をせず、いったん中断しても問題ありません。つわりがおさまってから矯正を再開するという選択肢もあるのです。

歯列矯正中・悪阻(つわり)で中断できる?

個人差はありますが、妊娠すると3〜4ヵ月目あたりから悪阻(つわり)がはじまります。車酔いのような吐き気とめまいなどの体調不調が続いて、寝込んだり、食事ができず点滴を受けたりする方もいるでしょう。

人によっては診察中に吐き気がつらい場合もあります。そのようなときは悪阻がひどい期間だけ治療をお休みするなどの調整も可能です。

一時的に治療を中断することがあっても、1〜2ヶ月の間であれば大きな問題はありません。それ以上の期間になると、歯が予期しない方向に移動してしまうケースがあるため、必ず前もって医師に相談してください。

妊娠中は虫歯や歯周病になりやすい?

妊娠中は虫歯や歯周病のリスクが増えます。

  • 悪阻(つわり)をまぎらわすために食事回数が増え、口内環境が酸性になりやすい
  • 歯ブラシや歯磨き粉で吐き気をもよおし歯磨きが不充分になりがち
  • 妊娠中に増える女性ホルモンの影響で口内環境が悪くなりやすい

上記の理由から、妊娠中は虫歯になりやすく、歯周病が進行することも多くあります。そのためいつものケアに口腔洗浄液(マウスウォッシュ)などを併用して、プラークコントロールには気を配りたいものです。

お母さんが歯周病になると早産や低体重児になりやすいという報告もあります。歯間ブラシなども上手に活用して使用して念入りにケアを行いましょう。

出産後に歯科矯正治療を再開するタイミングはいつから?

矯正治療を受ける妊婦

出産の直前は体調が安定しないものです。出産後は赤ちゃんのお世話に手がかかるため、外出がままならないことも多く、しばらくは受診が難しいことでしょう。

長期にわたって受診が困難な場合は、矯正装置を最適なかたちに調整します。まずは矯正歯科医にスケジュールをご相談ください。

マウスピース矯正なら負担が少ない?

インビザラインなどのマウスピース矯正は、通常のワイヤー矯正とは違って取り外し可能です。急遽つわりが起き、口の中の異物に耐えられないような時は外せるため、負担は少ないといえます。

妊娠中はとくに気をつけて口腔ケアをしたいものです。ワイヤー矯正はブラケットとワイヤーの隙間を歯間ブラシやフロスで掃除する必要があります。

通常のマウスピース(インビザライン)矯正時でもお口のケアは重要ですが取り外して歯磨きができるため、より簡単です。

結婚式に向けて矯正を考えている方は、矯正中に妊娠が重なる可能性が高くなります。歯並びによって、マウスピース矯正が有効かどうかは変わりますが、矯正歯科医に相談してみるのもいいでしょう。