乳歯が生え揃う2歳半から3歳ごろになると、検診で指摘を受けたりお子様の歯並びの悪さが気になってきたりと心配な親御様も多いのではないでしょうか。
歯並びや上下の噛み合わせに問題があることを「不正咬合(ふせいこうごう)」といいます。この原因は、乳歯が生え始める赤ちゃんのころから幼児期までの癖によるケースも多いものです。
あくまで気になったときに受診していただくのが一番ですが、今回はお子様に起きやすい不正咬合の種類と適切な矯正開始時期について、大まかな目安をご紹介します。
子どもの歯並び悪い状態はどんなものがある
赤ちゃんなのに受け口、乳歯の歯並びがガタガタといった「歯並びが悪い」状態とはどのようなものを指すのでしょうか。ここではお子様の歯に起きやすい不正咬合の種類とその原因、放っておくとどうなるのか、などについて解説します。
子どものガタガタの歯並びが気になる・叢生(そうせい)とは?
上の画像のように、歯並びがでこぼこ、ガタガタした状態が「叢生(そうせい)」です。乱ぐい歯や八重歯も、叢生の一種。厚生労働省の調べによると、日本人のおよそ4割がこの状態だというデータがあります。
歯並びがガタガタになる原因は以下の通りです。
- 骨格的な遺伝(歯に対して顎が小さい、顎に対して歯が大きい)
- 乳歯が早く抜けてしまうことでうまく生え変われず、歯が移動したため永久歯の生える場所がなくなってしまった
- 指しゃぶりや、舌を前に押し出す癖
叢生の状態では、でこぼこになった歯並びのスキマにプラーク(歯垢)がたまりやすく、歯ブラシが届きにくいことで虫歯や歯周病の原因になります。また歯の生えるスペースがないと、歯茎を突き破る形で永久歯が横から生えてきて、自分の歯で口腔内を傷つけてしまうこともあります。
乳歯の出っ歯が心配・上顎前突(じょうがくぜんとつ)とは?
画像のように、上の前歯が前方に傾斜していたり、上の歯並び全体が前に出ていたりするのは「上顎前突(じょうがくぜんとつ)」という状態です。一般的には出っ歯と呼ばれています。
出っ歯は、次のような原因によるものです。
- 骨格的な遺伝
- 上下の顎の発達がアンバランス
- 下唇を噛む癖
- 口呼吸によって口元の筋肉が未発達
- 舌を前に押し出す癖
- 指しゃぶり
口呼吸をするとき、顎は常に開いた状態です。通常上あごの下に付けているはずの舌の位置も定まらず、だらんとした状態に。唇を閉じる力も使わないので、口元の筋肉がゆるみます。口内の筋肉が育たないと歯が前に押し出される力に負け、さらに上顎前突が進行していくのです。
上顎前突の状態では、食べ物を前歯で噛みにくいことや、発音が不明瞭になることも多いようです。
噛み合わせが深い・過蓋咬合(かがいこうごう)とは?
上下の歯を噛み合わせたとき、画像のように上の前歯が下の歯を覆い隠す状態にあるのが、過蓋咬合(かがいこうごう)です。ディープバイトとも呼ばれ、噛むたびに下の前歯が上の歯茎にあたります。
考えられる原因は以下の通りです。
- 遺伝的な骨格により、上顎に対して下顎がかなり後ろにある
- 乳歯の虫歯によって奥歯を早いうちに失い、噛む力で奥歯が沈んだり伸びてこなかったりする
- 強く噛み締める癖
- 下唇を噛む癖
過蓋咬合をそのままにしておくと、下の歯が上の歯茎に触れ続け、歯茎を慢性的に傷つけることに。また顎が奥へと押される力が掛かり、強い負担によって顎関節症になることもあります。
赤ちゃんのうちからみられる受け口・下顎前突(かがくぜんとつ)とは?
下の前歯が斜めに飛び出ている、下の歯全体が全体に前に出ている、この画像のような状態を「下顎前突(かがくぜんとつ)」といいます。反対咬合(はんたいこうごう)とも呼ばれ、上下の歯がぶつかる切端咬合(せったんこうごう)も同じ部類に入ります。
赤ちゃん、乳児のうちから「受け口」が気になるのなら、下顎前突の状態かもしれません。
この原因は以下のものが多いようです。
- 遺伝的な骨格から、下の顎が大きい(上の顎が小さい)
- 上の前歯が内側に傾斜しているなど、歯の萌出方向に問題がある
- 下の顎を突き出す癖
- 口呼吸の癖により、舌の位置が不安定になり下の歯を押している
受け口のままでいると「食べ物を前歯で噛みにくい」「発音が不明瞭になる」などの問題が起きがちです。また顎関節症のリスクもあります。切端咬合の場合は噛むたびに上下の歯がぶつかるので、前歯の欠けや削れも起きやすいでしょう。
噛み合わせがズレている・交差咬合とは?
上の歯に隠れているはずの下の歯が、片方だけ前に出たり全体的に噛み合わせがズレていたりするようなら、交叉咬合(こうさこうごう)という状態です。
クロスバイトとも呼ばれるこの状態の原因は以下のものがあります。
- 骨格的な遺伝
- 上下どちらかの顎がズレている
- 食べるときに同じ方の顎ばかり使う癖・頬杖をつく癖
- 舌で歯を押す癖
交差咬合の状態では食べ物を上手に噛み砕けず、消化不良を起こすことも。また顎関節に負担が掛かりやすいため、顎関節症になるリスクがあります。
子どものお口が開いたまま・開咬(かいこう)とは
奥歯を噛み合わせたときに、前歯にすき間ができているならば、それは「開咬(かいこう)」という状態です。オープンバイトと呼ばれることもあります。
開咬は以下の原因で起きやすくなります。
- 長期間の指しゃぶり、おしゃぶりの使用
- 前歯の隙間から舌を出す癖
- 口呼吸癖により口内の筋肉が弱まっている
- 爪を噛む癖
開咬の状態では、前歯でうまく噛めずに奥歯の負担が大きくなるため、奥歯の欠けや削れ、顎関節症の要因になることも。発音も不明瞭になりやすいようです。
前歯の歯並び、すきっ歯が気になる・正中離開(せいちゅうりかい)とは?
前歯にスキマができているのは「正中離開(せいちゅうりかい)」という状態です。一般的にはすきっ歯と呼ばれ、お子様の歯並びによく見られます。
すきっ歯になる原因は以下の通りです。
- 上唇小帯(じょうしんしょうたい)という、唇と前歯の真ん中をつなぐヒダが先天的に大きいため、前歯の隙間に入っている
- 余分な永久歯(過剰歯)が前歯の間に埋まっている
- 永久歯の本数が少ない
- 歯が小さい
- 舌で前歯を押す癖
- 顎の成長が不十分
すきっ歯の状態でいると、食べ物が歯の隙間に挟まりやすく虫歯・歯周病が起きやすくなります。また歯の間から空気が漏れるため、発音が悪くなりがちです。
子どもの歯並び、矯正するならいつ?症状別の治療開始時期
お子様の歯並びの悪さ、不正咬合が気になったら、どのようなタイミングで矯正をはじめればいいのでしょうか。
お子様の歯並びを矯正する治療には、歯の生え変わり時期を目安に始める「第一期治療」と永久歯が生え揃った後に行う「第二期治療」があります。
第一期治療は乳歯の残っている幼児から小学生(3歳から12歳くらいまで)のお子様を対象に行います。主な治療内容は顎のバランスを整え、自然な形で正しい成長に導く方法です。歯の並ぶ場所を広げる床(しょう)装置を使用した床矯正(しょうきょうせい)や、マウスピースのような器具「ムーシールド」を使用する方法があります。
「第一期治療」で正しい歯並びの土台を作った後に行うのは、永久歯が生え揃う12歳~のタイミングでの「第二期治療」です。こちらはブラケットやワイヤーを使用し、歯の隙間や歯並びのねじれを正していく治療内容になります。
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ガタガタの歯並びは前歯部の永久歯が生え揃う時期から開始するケースが多い
骨格的な問題がなく、歯並びが乱れている「叢生」では、小学生(高学年)から中学生になる時期を待って、第二期治療から開始することもあります。歯の大きさや生えている位置が歯並びの悪さを引き起こしている場合は、前歯部の永久歯が生え揃う時期を見計らって、矯正を開始するのがいいでしょう。
経過を観察しながらベストな時期に開始することで治療期間も短縮できるので、ぜひすべて生え揃う前に矯正歯科に相談してください。
受け口は乳歯時期(3歳ごろ)から治療開始できることも
「3歳児検診で受け口を指摘された」「お子様の下顎が出てきて気になる」という親御様は、早めに歯科医師に相談することをオススメします。
ほとんどの歯科矯正は、前歯部の永久歯が生え揃う時期から治療を開始しますが、下顎前突、反対咬合(受け口)の矯正は3歳ころから可能です。
幼少期の受け口の治療には、ムーシールドという器具を使用します。ムーシールドは、主に就寝時に装着するマウスピースのような器具です。装着した状態で口を閉じる練習を行い、上顎の正常な成長を自然に促します。
下顎の成長があり、遺伝的にも受け口の傾向が強いお子様には乳歯時期からの治療が効果的です。しかし状態次第では上の前歯が生え変わってから治療を始めるほうがいいケースも。受け口の度合いによって適切な開始時期が変わります。必ずしも乳歯の時期から開始すべき、というわけではありませんので、気軽に相談してみましょう。
その他の不正咬合は永久歯に生え変わるころに要相談
今回ご紹介したすべての不正咬合に対応している矯正方法は、床矯正です。
一般的な歯列矯正では、抜歯によって歯が並ぶ場所を確保して歯並びを整えていきます。これに対して床矯正は床装置という器具を使い、お子様の成長に合わせて顎の骨を広げることで、理想的な歯並びのスペースを作っていく治療法です。
ほとんどの場合、健康な歯を抜く必要がないため、お子様の負担も少ないでしょう。床装置は取り外し可能なので、食事や歯磨きのときに外すことで磨き残しや虫歯の心配も軽減されます。
歯並びや顎の状態によっては床矯正が不適合だったり、他の矯正方法が合っていたりする場合もあります。
床矯正に適した時期は永久歯が生え揃うころといわれていますが、不正咬合の状態によっても変わるため、専門医と相談のうえ計画を立てていきましょう。
お子様の歯並びが心配なら矯正歯科にご相談を
お子様の歯並びが悪い原因は、歯だけでなく顎にもある場合があります。顎が成長しきってからの矯正は、抜歯をともなうケースや骨を切るような外科手術が必要になることも。
まだ骨が柔らかく、顎が成長段階にあるお子様のうちなら歯が動きやすいため、顎を正しい形に導いて、歯がきれいに並ぶスペースを確保しやすいのです。
この時期に、床矯正やムーシールドなどの治療でお子様の顎を広げる(歯が生える場所を整える)よう促すことで、将来的に抜歯のリスクを減らしながら、理想的な歯並びを作れます。
お子様の歯並びはそれぞれに状態が違うもの。矯正治療が必要な歯並びかどうかの判断は、歯科の専門知識が必要です。そのため、受け口なら3歳ごろ、他の不正咬合でも前歯が乳歯から永久歯に生え変わる7歳ころまでに、受診していただくことをオススメします。
早めの診療で、もっともお子様に負担の少ない治療法、費用を抑えられる時期などの選択が可能になります。