奥歯を噛んだとき、上下の前歯の間には若干の隙間があくものです。しかしこの間隔がとても大きい状態なら「オープンバイト(開咬)」と呼ばれる不正咬合の可能性があります。

日常生活に支障がない場合でも、そのまま放置しておくのは危険です。

歯並びや噛み合わせの悪さを治さずに放っておくと、体の不調につながることがあります。それは「オープンバイト」も例外ではありません。

そこで今回は「オープンバイトを放置することで起こる体の不調」、開咬の治療方法についてあわせてお伝えします。

オープンバイト(開咬)の噛み合わせの症状は「前歯があたらない」「奥歯があたらない」2つのタイプ

「オープンバイト」は、上の画像のように、奥歯を噛んだとき上下の前歯の間に“大きな隙間”ができ、前歯があたらなくなってしまう症状です。

前歯の噛み合わせに隙間があるとうどんやラーメンなどの麺類をうまく噛み切れず、丸のみにしてしまい胃腸に負担がかかることがあります。また歯のすき間から息が漏れてうまく発音できないなど、日常生活で「オープンバイト」の弊害に悩まされている方もよくいらっしゃいます。

反対に、前歯はうまく噛み合っていても奥歯があたらない状態もオープンバイトの一種です。奥歯(臼歯)が浮いてしまうので、食べ物をうまくすりつぶせません。そこでムリに奥歯を噛み締めてしまい、下顎に大きな負担がかかります。

今回のコラムでは、前者の「前歯の間に大きな隙間ができる」タイプのオープンバイトについて解説していきます。

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奥歯を噛み合わせると前歯があたらない・オープンバイト(開咬)の原因は?

歯の上下が噛み合わない原因には、幼少期の指しゃぶり、舌を前に突き出す癖、口呼吸などがあります。特に口呼吸の癖があると口腔内の筋肉が発達せず、前歯の噛み合わせに隙間ができやすくなるものです。

また骨格的な問題で下顎の成長に問題がある人も、オープンバイトになりやすい傾向があります。大人になってから発症する方もいますが、骨格的な要因が大きければ、保険診療が可能な「顎変形症」という状態です。

オープンバイト(開咬)をそのまま放置すると不調の原因に

オープンバイトは、日常生活にさまざまな問題を引き起こします。前歯があたらない不正咬合で起こりやすい問題を詳しくみていきましょう。

前歯が閉じず、口呼吸になる傾向が病気を呼ぶ?

「オープンバイト」の状態では、外に広がった前歯が邪魔をして口をうまく閉じられず、口呼吸がくせになってしまうケースがあります。口呼吸のくせはオープンバイトの原因になりますが、オープンバイトが原因で口呼吸になってしまうケースもあるのです。

鼻呼吸の場合、空気中に含まれる細菌やウイルスなどの有害な物質を鼻毛がフィルターとして絡め取ってくれます。ところが口にはフィルター機能がないので、これらの物質を体内に直接取り込んでしまうのです。その結果、インフルエンザや風邪などの病気にかかりやすくなります。

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虫歯になりやすい

口呼吸を繰り返すと病気にかかりやすくなるだけでなく、虫歯になる可能性も高まります。口内が乾燥すると、虫歯を防いでくれる唾液の分泌量が減ってしまうからです。

飲んだり食べたりしたあと、口内は酸性に偏りますが、その状態が長く続くと歯からミネラル成分が溶け出して虫歯になりやすくなります。そこで活躍するのが「唾液」です。唾液が分泌されると口の中は中性に保たれ、虫歯になりにくい口内環境へと整えてくれます。

その他、唾液の役割としてあるのは、歯から溶け出したミネラルを補充し、修復することです。オープンバイトによる口呼吸で口内が乾燥し、唾液の量が減ってしまうと、これらの原因で虫歯にかかりやすくなります。

顎関節症になりやすい

上下の前歯が完全に閉じられないと、ものを噛むときに奥歯を頻繁に使うようになります。奥歯への負担が大きくなれば、奥歯周辺の顎関節にもダメージを与え、顎関節症を併発しやすいといえるでしょう。

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前歯で噛めないため「奥歯」に負担がかかる

よく噛んで食べることは、歯根を太くし、一生使える強い歯を育てるためにいいことです。しかし、ものを噛んだり歯磨きをしたりすることは、歯をすり減らし摩耗させます。適度な摩耗ならいいのですが、過度に強く噛むことは歯にかなりダメージを与えるのです。

人の噛む力というのは、その人の体重ぐらいの力があります。つまり、50kgの体重であったら、50kgの力が歯にかかっているのです。通常はすべての歯でそれだけの重さを支えているのですが、オープンバイトの場合は奥歯だけで支えます。そのため奥歯の摩耗が通常に比べて、早く割れたり折れたりすることも起きがちです。

オープンバイト(開咬)は矯正で治せる?マウスピース矯正は可能?

マウスピース矯正

骨格的な問題がなく、歯の傾きを改善すれば治療できるような軽度のオープンバイトであれば、マウスピース(インビザラインなど)での矯正が可能な場合もあります。

オープンバイトの治療は一般的にブラケット装置を用いるケースが多いようです。費用の面や取り外しできる手軽さから、マウスピースで矯正したいという方もいるでしょう。

マウスピースで治療する場合は、食事の時間をのぞき1日中装着する必要があり、つけ忘れに注意が必要です。装着する時間が短くなってしまい、予定どおりに矯正がすすまないこともあります。

またオープンバイトの原因として、下顎の骨格的な問題が大きい場合は「顎変形症の治療」として保険診療が可能なケースもあります。外科手術と矯正治療を併用して骨格的に改善しながら、理想的な噛み合わせにしていく治療を行います。

開咬の治療方法は?どうやって治す?

開咬の治療には、外科矯正手術によるものと矯正治療の2つの方法があります。

外科矯正手術とは、顎の骨を切って後退させることにより、上下の前歯の噛み合わせを正す矯正方法です。また矯正治療は、上下の前歯を歯の先端の方に向けて移動させる「挺出」や過度に萌出した奥歯や臼歯を歯の根っこの方に向けて移動させる「圧下」などを行います。

開咬の治療は手術のため入院が必要だったり、鼻の下から下顎までの長さである下顔面高(かがんめんこう)が長くなったりするデメリットがあるため、原因や顔の形態により、適した治療方法を判断することが大切です。

開咬は自力で治る?

開咬を自己判断で治そうとするのは危険です。後戻りが起きる、正しい噛み合わせにならない……などの問題点もあり、推奨されていません。

お子様の場合は、指しゃぶりや舌の位置の癖をやめたり生活習慣を見直したりすることで、改善につながるケースもあります。口腔内のトレーニングも推奨されていますが、いずれにしても自己判断するのではなく専門医の指導の下で行いましょう。

開咬の治療に抜歯は必要?

抜歯される歯

開咬の治療は、症状によっては抜歯が必要です。とくに永久歯が生えそろう13歳以降は、抜歯を伴うケースも多いといえます。しかし、永久歯が生えそろう前のお子様の場合、早めに治療することで抜歯せずに治療を進めることも可能です。

開咬の治療はセラミック矯正が可能?

上顎の前歯2本にセラミック治療を施すことで、オープンバイトや出っ歯の状態を解消する方法もあります。しかし、セラミック矯正は歯を削るため、慎重に考えましょう。

セラミック矯正は歯を動かすのではなく、問題のある歯を削り、上からセラミックの歯を被せて歯並びを改善させる矯正方法です。治療期間が短いというメリットはありますが、健康な歯を削るというリスクが生じます。一度削った歯はもとにはもどせません。開咬の治療はじっくり治療する方法をおすすめします。

開咬の治療にはいくらかかる?費用の目安は?

開咬の治療費用は、表側のワイヤー矯正の場合は70万から100万円。舌側矯正では100万から150万円ほどの費用がかかります。症状によっては、外科的矯正治療が必要になる場合もあります。
その場合、全額自己負担となる成人の治療で80万から100万円の費用が相場です。

治療に保険は使える?

開咬の原因が顎変形症の場合は、保険が適用される場合もあります。適用されるには、顎口腔機能診断施設の指定をうけた医療機関で「顎変形症」の外科矯正治療が必要です。治療にかかる費用は症状により異なりますが、矯正治療で40万から100万、手術で25万から50万円程度となります。

オープンバイト(開咬)が気になったら矯正歯科へ

オープンバイトが気になる方は、矯正歯科医院へご相談ください。オープンバイトは歯の状態や原因により、適した治療方法が異なります。さらに顎変形症では、保険治療が適用される場合もあります。
歯列矯正でオープンバイトを治療し、健康な生活を目指しましょう。